2013年10月29日火曜日

「『正社員』の研究」

最近読んだ本を紹介したい。

「『正社員』の研究」 小倉一哉(日本経済新聞出版社)。「非正社員の研究が蓄積されているかわりに、正社員を対象にした研究はあまりないのではないか」という問題関心から、著者は本書を執筆したという。たしかに、非正規雇用や派遣労働の研究に比して、正社員についての研究は少ないように感じられる。そもそも正社員とはなにか、があいまいであって、(その理由は、最近まで“労働者イコール正社員”であることが前提であったから考慮を要しなかったからでもあろうが、)正社員を定義づけすること自体が容易でないことを説明している。タイトルや文中に「正社員」とカギかっこを付しているのはそのためであろう。

さて、本書の内容はといえば、図表等を多く掲載しつつ、研究の過程やその前提、条件等を詳細に記述している。研究者でない自分などにとっては読み飛ばしてしまう部分が多かったが、“まとめ”ともいうべき終章「これからの正社員を考える」から、以下引用する。

1995年に日経連が示した「長期蓄積能力活用型グループ」、つまり企業の中核的な人材は、決してなくなることはない。そして「雇用柔軟型グループ」は、すでにその多くが「正社員」ではない。問題は、「高度専門能力活用型グループ」が、これまでの「正社員」を中心とした雇用形態から、どこまで「有期雇用の専門職」となっていくのか、そして同時に、「長期蓄積能力活用型グループ」がどこまで狭まっていくのかにある。
「高度専門能力活用型グループ」に関しては、これまでは企業が育ててきたといってよいだろう。しかし企業内の職業教育は徐々に廃れてきているといわれている。そして高度専門能力を持った労働者を企業が自ら育てようとしない限り、誰かがその役割を担わなければならない。それが外国人なのか、それとも公的な職業教育に委ねるのかは、今のところ明確ではない。明確ではない段階で、「正社員」の枠から外すという人材戦略を、企業が簡単に採れるとは思えない。
企業の中核的な人材は、第4章で述べたように、定着してきている成果主義的な人事評価によって、ますます厳しい状況に置かれているように感じる。もちろん一部では、単なる数値目標の弊害を認識し、改良されてはいるようだが、今さら牧歌的な職能資格制度に戻る気配はまったく感じられない。したがって、これからも改良型の成果主義が、人事評価そして処遇の中心に据えられるだろう。
冷静に考えれば、「正社員」が消滅するはずはない。少なくとも企業の屋台骨を支える中核的な人材は、原則的に「正社員」だからだ。今後の経済環境を予測することは難しい。したがって今後の労働市場の変化を予測することも難しい。しかしながら、企業が「非正社員」労働コストに魅力を感じ、そして中核的な人材の枠を狭める限り、やはりこれまでの「正社員」は変わっていくのだろう。長期的には、「正社員」と「非正社員」の間にある大きな壁が取り払われる日が来るのかもしれない。しかしそれでも、企業の中核的な人材は必要だ。もしかしたら、何十年も後には、ごく少数の「正社員(中核社員)」とその他大勢の「その他社員」などという括りになっているのかもしれない。―

著者が同じく終章で、「『やはり正社員の相対的な価値が高まっている』『正社員は今後も枠が狭められるだろう』『成果主義、仕事のきつさ、長時間労働という正社員の厳しい特徴も緩和される気配がない』という、執筆前から予想がついた悲観的な結論で筆をおかなければならないことは、残念なことである。」と述べるように、本書からは、新しい知見や今後のビジョンを、私は読み取ることができなかった。

ただし、引用部分の最後の一文(もしかしたら、何十年も後には、~はありうる将来像かもしれないと感じた。それが良いことなのか悪いことなのか、議論は措くとしても…。

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