2014年5月9日金曜日

「雇用再生 持続可能な働き方を考える」

最近読んだ本を紹介したい。

「雇用再生 持続可能な働き方を考える」清家篤(NHK出版)。著者は、昨年8月まで社会保障制度改革国民会議会長を務めた人物である。昨今、政府の労働関係政策は、解雇規制の緩和や労働移動の促進といったいわば「改革開放路線」というイメージだが、本書の主旨は、「これまでの労働・雇用慣行のメリットを十分生かしながら、時代の変化に応じた修正を加えていくべき」というもののようである。日本の雇用慣行を特徴づけるものとして挙げられる“三種の神器(「長期雇用制度」「年功制度」「企業別労働組合」)などは、歴史的に醸成されてきたメリットの大きい雇用慣行であるとして評価し、その上で、環境の変化に合わせた修正の必要性を提示している。

以下引用する。
―これからの日本の雇用のあり方を考えると、労働の供給側から言えば少子高齢化がキーワードであり、需要側から言えば、一つはIT化に代表される技術の変化であり、もう一つは冷戦崩壊後のグローバルな低賃金競争の激化に象徴される技術の変化ということになる。だんだんと希少になってくる貴重な労働者に高い付加価値を持った製品やサービスを生産してもらうためには、どんな雇用の仕組みが必要なのか。高付加価値生産能力は労働の供給側、需要側ともに共通の課題となっていく。こうした視点から、日本の雇用のあり方がどう変わっていくか、さらに詳しく考えていくことにしたい。―
―日本の新規学卒一括採用という慣行は学校から職場が直結しているため、最初から失業者という形で社会に放り出されたりはしない。労働市場のパフォーマンスという視点からいうと、若者が失業を経ずに就職に至ることができるということは高く評価すべきことで、実際、新規学卒一括採用はほかの国からも羨ましがられるような制度なのである。日本にいるとなかなか気づかないが、こうした視点から見ると新規学卒一括採用は大変によくできた制度慣行であり、これは容易に壊してはならない仕組みである。―
―いずれにしても、新規学卒一括採用は制度・慣行としてメリットの大きいものだ。それに伴うさまざまな問題はいまの制度を維持したままで修正可能である。何よりも、若い人の失業率を低くおさえることができ、若いときから能力開発の機会を持つことができるという意味では大変メリットのある制度であると言ってよい。企業にとってもその企業で役立つ能力を形成し、その企業向きの人材を育て、忠誠心を持って長く貢献してくれる人材を育成するという意味で、メリットの大きい仕組みである。この慣行を守りながら、問題点を修正していくというのが望ましい視点である。―
―二〇一三年にOECDのまとめた「国際成人力調査」によると、「読解力」と「数的思考力」でアメリカの成人は二四カ国中、それぞれ一六位、二一位であったが、日本の成人は世界トップであった。この結果から、成人の知的能力を磨くためには、職場での教育訓練は重要な役割を果たしていると思われ、日本経済新聞でも「学校教育を終えた後も長期にわたって能力が上がっているのが特徴で、人を育てる企業文化が根付いていることが背景とみられる」(二〇一三年一〇月九日付)とこの結果を解説しているが、そのとおりであろう。こうしたいわば大人の能力を磨く機会としての企業内の教育訓練の役割は日本の強さであり、それを可能にしているのはここまで述べてきたように、教育訓練費用を長期にわたって回収できる長期雇用制度である。―
―何より仕事能力を身につけることが大切だとすれば、若者はまずはとにかく正規雇用についたほうがよい。そして、職業人生初期の教育訓練の機会を得て、仕事能力をしっかりと身につけることが大切である。もしそれが難しい状況であるのであれば、政府が企業に対して助成金などを与えることによって、若者を正規雇用者として雇うように促すべきである。きちんとした初期の仕事能力を身につけさせるような教育訓練をする企業には助成金を出す、あるいは別の形で言えば、その訓練期間中の若者の賃金の一部は社会全体が負担するといった形の支援策を講じて、若者の能力開発、教育訓練の機会を確保することがこれからますます重要になる。―

そして、公的制度が雇用における格差を助長している点(たとえば厚生年金制度)にも言及し、本書を以下のように締めくくっている。
―少し前に、フリーエージェントの時代と言われたことがあった。今後はたしかにこれまでよりは多くの人が、専門家として市場を通じて、さまざまな組織やプロジェクトの間を行ったり来たりすることになるだろう。一時的・スポット的に雇用されたり解雇されたりというフリーランスの市場も、一部では見られるようになるかもしれない。しかし多くの人たちがそのように労働サービスを取り引きするようになるとは考えられず、相変わらず組織が人を雇い、その中で人を育て、やる気をもって働いてもらうという雇用のあり方が、これからも社会の生産活動の中心を担っていくことは間違いないだろう。
本書では雇用について考えてきたが、その意味で、組織に雇われて働く雇用労働の経済分析はこれからも大切であり続ける。付加価値競争の時代になればなるほど、むしろ雇用のあり方が以前にも増して重要になってくるはずである。

著者も指摘しているように、労働政策の議論はともすれば両極端にふれてしまうのだが、これに対して警鐘を鳴らす一冊である。

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